Nippoku Style | みなさん 是非読んでください
 
 本校2年生の田中美優さんの読書感想文が、茨城県教育委員会教育長賞を受賞したことは、既にお知らせしました。(→ こちらから御覧ください)
 今日、県民文化センター小ホールで行われた「生徒図書委員中央研修会」で、教育長賞を受賞した読書感想文を、田中さん自身が約400人の参加者の前で朗読しました。田中さん以外にも、県知事賞、県議会議長賞に輝いた二人が、それぞれが書いた感想文を同じように朗読しました。
 約400人の聴衆は三人の朗読を、耳を澄ましてジッと聴いていました。自分の書いた文章を、自分が感じたことをみんなに伝えようという気持ちで朗読するのですから、聴いている私たちにも書いた生徒達の心の動きがよくわかりました。中には朗読する声に合わせて頷く方もいるなど、目で文章を読むのとは一味違う感想文の楽しみ方を体験することができました。
 三人の朗読を聴いて、改めて高校生が持っている瑞々しい感性の素晴らしさを感じました。そういう感性をうちに秘めた多くの高校生と接している私たちは、本当に幸せだと思います。そして知らず知らずのうちに、私たちは生徒達からパワーをもらっているのです。
 田中さんが書いた読書感想文を、本人の了解を得て下に載せましたので、是非お読みください。
Little voice −見つめる先−
 世界は小さな声で溢れている。その声は、私の意識次第で遠くもなり、近くもなる。
 
 『インパラの朝』を手にした時、私はあるイメージを膨らませ、冒険への期待感を高めていた。アフリカの壮大な景色、アジアの極彩色豊かな風景、異国の自然や文化。私のイメージはみるみる広がっていった。だが、実際に読み進めて行くと全く違っていた。そこには、むしろ色のない、個々の狭い世界が広がっていた。
 
 誰もが経験するある日突然の、ふとした時に思いつくあらゆる空想。だが、その大部分は、空想の規模が大きく、行動に移せる人はなかなかいないだろう。しかし、彼女は違っていたのだ。まず冷蔵庫を売りとばすところから始まり、バックパックにシュラフを詰め、予防注射を打ち、体重を三キロ増やした。彼女のその行動力を示す、流れるような自然に放たれた言葉たちに、私は既に衝撃を受けていた。少し羨ましいと感じたのは、きっとその行動力に対してなのだろう。
 
 人それぞれ、自分に影響をもたらしてくれた言葉があるように、著者の中村さんにもこの旅をするきっかけとなる言葉があった。もし、その言葉を私か聞いていたとしても「わかってはいるよ、けどしょうがないじやないか、社会なんてそんなものだろう。」と、世の中のせいにして、聞かなかったふりをして、いつもと変わらない時を過ごしただろう。しかし、彼女は私とは逆の方を向いて、聴きに行ったのだ。小さな声を、その限りない広がりを。
 
 こうして彼女の旅は始まったわけだが、いざ蓋を開けてみると想像以上に過酷であった。それでも旅を続けたのは強い思いがあったからだと思う。その思いは、ある一文に表されていた。
インパラのように周囲のすべてを吸収し、同時に遠い世界を見据え、遥か彼方を見渡す。
まさにこれこそが彼女の思い、この旅の課題なのではないだろうか。
 
 日本での暮らしについて、日本の人々はどのように考えているだろう。私は正直なところ、よく分からない。なぜならこの暮らしが当たり前のように毎日続いていて、当たり前の事に慣れてしまうと、それはいつしか普通のことになってしまうからだ。しかし、それでいいのだと思う。小さな事に日々感謝してなるべく当たり前という意識を少なくする努力はしていきたいものだ。だが、その当たり前を日常化、常識化してしまうとどうにもならない意識の格差が生じてしまう。
 
 仮に、裕福な人と貧しい人と完全に分けられている世界だとしたら貧しい人の幸せは裕福な側の人間には勝てないのか。いや、そうではないと私は思う。やはりお互い、自分の生きてきた道、生活が普通だと思ってすごしているわけだから、結局は相手側の幸福な気持ちの度合いがわからないのだ。つまり、自分自身の基準で、その人なりの度合いで、可能な限り、人生を楽しみ歩むことが大切だと気付くことができた。
 
 国際協力や支援においてもそうである。支援する側の都合や価値観を押しつけてはいけない。基準や度合いにそぐわない支援ほど無駄なものはないのだ。先進国がよかれと思って行ったことが、途上国に住む人々の生活環境を破壊させてしまっているのも現状なのだから。何か本当に必要なのか、適切な支援が何なのかを見極め、行動していくことが必要だろう。
 
 私は今、日本という国に住んでいて(いわゆる内側にいる存在なのだけれど)外側から見た我が国は一体どのように映っているのだろうか、たまにこんな大それたことを考える事がある。その疑問は一人のパキスタン人によって解決することが出来た。根本的なところに戻ってしまうけれど、本当はそこが一番大切で、重要なポイントなのかもしれない。彼は言った。日本をとても尊敬していたと。「日本はあれだけすごい技術と頭脳を待った国なのに、その力を武力の増強や核開発に使わない、モラルのある国、すごい国だ。」と。なるほどな、と思った。自国愛でもひいきでもなく、客観的に見て、それは納得のいく答えだった。しかし、彼は続けた。「だけど突然君の国は、アメリカ側にくっついてイスラム社会に牙を剥いた。僕らはとてもガッカリしたよ。」と。私は悔しくも悲しくもなんとも表現し難い感情に襲われたが、結局返す言葉は見つからなかった。
 
 私はまだ、遠い世界を見据え、遥か彼方を見渡すことはできないが、今過ごしている狭い世界の中でも、吸収すべきことは山ほどある。いつになっても、どんな事柄でも、しっかりと本質を見つめて、確かな方向へ進んでいきたい。
 
 悠然としたまなざしで、まるでインパラのように−。


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